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福岡高等裁判所 昭和37年(ネ)851号 判決 1964年3月12日

理由

一、本件土地がもと控訴人の所有であつたこと及び同土地について被控訴人らのために、控訴人主張の各所有権移転登記と篠原のために控訴人主張の仮登記のなされていることは、当事者間に争いがない。

控訴人は、控訴人から宮下への本件土地の売買による所有権移転登記は、実体上売買がないのに、控訴人の印鑑、委任状、印鑑証明書を冒用してなされた違法なものである旨事実摘示のとおり主張するけれども、右主張を認めるべきなんらの証拠がない。

つぎに控訴人は控訴人から宮下へなされた前記所有権移転登記の原因たる売買契約は、被控訴人両名と陳世英三名の共謀によつてなされた詐欺による意思表示に基ずくものであると主張するけれども、……これを確認すべき証拠はない。加之、(証拠)によれば、控訴人から宮下に対する本件所有権移転登記は、正当な売買に基づいて適法になされたもので、右売買は、控訴人主張のような詐欺によるものでないことが明認される。したがつて控訴人の前示各主張は理由がない。

二、控訴人が被控訴人両名を相手方とし、昭和三六年一二月九日本件土地につき、売買譲渡その他一切の処分を禁止する旨の仮処分決定を得、その頃その旨の仮処分登記を経たこと、その後篠原が昭和三七年三月一九日宮下との代物弁済を原因として、翌二〇日福岡法務局受付第六、〇六六号をもつて、本件土地の所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがない。しかして、不動産の譲渡その他一切の処分を禁止する仮処分決定がなされてその登記を経た場合は、第三者がその登記後に権利移転の登記をしても、仮処分によつて保全さるべき仮処分権利者の権利と相容れない範囲においては、第三者は右権利移転をもつて仮処分権利者に対抗し得ないのは当然であるけれども、仮処分がその後に取下げられまたは取消された場合、もしくは仮処分によつて保全さるべき権利のないことが本案訴訟において判明したときは、仮処分の登記後に権利移転の登記を経由した第三者は仮処分の登記の存在にかかわりなく、不動産の権利者であると解するのが相当である。ところで先に見たとおり、控訴人から宮下に対してなされた本件土地の所有権移転登記は、偽造文書によつてなされたものでもなく、また詐欺など意思表示にかしのある売買に基づくものでもなく正当な売買を原因としてなされた適法な登記であつて、この登記によつて宮下は売主たる控訴人に対する関係においてはもとより、第三者に対する関係においても、本件土地の所有権を取得したものというべく、ここにおいて控訴人は終局的に本件土地の所有権を喪失し、前示仮処分当時すでに仮処分によつて保全さるべき権利を有しなかつたと解すべきであるばかりでなく、前記乙第一号証によれば、仮処分決定は被控訴人らの異議申立によつて取消されていることが明らかである以上、篠原の経た本件土地の所有権取得登記が、仮処分の登記後であることを理由とし、篠原に対してその所有権取得登記の抹消登記手続を求める控訴人の請求は、いずれにしても排斥を免れない。

三、すでに控訴人が前認定のとおり本件土地の所有権を喪失した以上、篠原に対して仮登記の抹消登記手続を求め得る権利を有しないことが明らかである。そして控訴人は宮下に対しても、篠原が経由した前示仮登記の抹消登記手続を請求しているけれども、宮下は仮登記の経由に関しては仮登記義務者たる立場にあるので、仮登記の抹消登記手続において被告たる適格を有するものではないから、宮下に対して、篠原が仮登記権利者である仮登記の抹消登記手続を求める請求は、すでにこの点において排斥を免れない。

四、原判決は相当で控訴は理由がなく、……。

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